サードパーティCookie廃止が3度の延期と撤回に至るまでをゆるく振り返る
Google がこれまでに3度延期を重ねていた Chrome におけるサードパーティCookie廃止が一転、撤回されるというニュースが飛び込んできました。
こちらのニュース、部分一致がインテントマッチになる件と同じように、結構衝撃を受けた方が多いのではないでしょうか。
Instead of deprecating third-party cookies, we would introduce a new experience in Chrome that lets people make an informed choice that applies across their web browsing, and they’d be able to adjust that choice at any time.
（訳）サードパーティの Cookie を廃止するのではなく、ユーザーがウェブ閲覧全体に適用される情報に基づいた選択を行える新しいエクスペリエンスを Chrome に導入し、その選択をいつでも調整できるようにします。
詳細はアタラ社の杉原さん@sugiharg が誰よりも最速で長文ポストされていたりするので、ぜひそちらも見ていただければと思いますが、個人的にも「3度の廃止延期、ここにきて廃止撤回か...」となかなか衝撃的でした。
自分が運用型広告に携わるようになってから大体10年ぐらい経つのですが、思い返すとキャリアの半分ぐらいはサードパーティークッキー廃止に翻弄される日々でした（笑）
偶然3度目の延期の際（2024年4月）にそんな話を杉原さんともFacebook上でしていたのでした
今日はそういったサードパーティークッキー廃止をめぐる私記をベースに、思うところについてお伝えできればと思います。
このニュースレターは読者限定（無料）のニュースレターです。
読者ではない場合、途中から読めなくなってしまいます。
必要な方は先に登録をお願いします。
また読者の方限定で、最後に評価アンケートがあります。
ご回答よろしくお願いします。
1.いったい何が起きたのか（あるいは起こらなかったのか）
一言でいうと、Google が2020年ぐらいから発信していた「Chrome におけるサードパーティ Cookie のサポート終了（廃止）」が3度の延期を重ねた末に、撤回されました。
詳細は公式のドキュメントを参照いただければ、重要点だけ抜き出すと、次の通りとなります。
Instead of deprecating third-party cookies, we would introduce a new experience in Chrome that lets people make an informed choice that applies across their web browsing, and they’d be able to adjust that choice at any time.
（訳）サードパーティの Cookie を廃止するのではなく、ユーザーがウェブ閲覧全体に適用される情報に基づいた選択を行える新しいエクスペリエンスを Chrome に導入し、その選択をいつでも調整できるようにします。
We’re grateful to all the organizations and individuals who have worked with us over the last four years to develop, test and adopt the Privacy Sandbox.
（訳）過去 4 年間にわたり、プライバシー サンドボックスの開発、テスト、導入にご協力いただいたすべての組織および個人の皆様に感謝申し上げます。
おそらく内部では「のちに映画になっても良いのでは？」というぐらいに、ドラマチックかつサスペンスなやり取りがあったものと想定されます。
スマホシフト期の現 LINEヤフー株式会社の社内の模様を描いた、下山さんの『2050年のメディア』（特に19章がすごい）のように、後に作品で見聞きできるような機会があればぜひ手にとってみたいです。
社内には、電脳隊（後述）出身の村上臣や川邊健太郎が、ｉ－ｍｏｄｅの時代からヤフーのモバイルを率いていたが、重視されず、2010年4Gが始まった年には、全社で重要案件をリストアップしてリソースをその案件に集中させる一〇の「目玉案件」の中に、モバイルやスマホは入らなかった
当時のヤフーの上層部は、創業時のメンバーで固められ、ほぼ全員がパソコンで育ってきた世代だった。 パラダイムシフトはパラダイムの中にいる人間にはわからない。太陽のほうがまわっていると思う。外からみれば、まわっているのは地球なのに
モバイルを率いていた村上臣は社での将来を悲観して、ヤフーを退社してしまう
この状況から孫さんが働きかけ、宮坂さんがヤフーの舵取りを担うこととなり村上さんが執行役員CMO（チーフ・モバイル・オフィサー）として呼び戻し、全社に宮坂さんの「スマホファースト」の経営方針が徹底されるようになり...という怒涛の展開です。
やや厚みのある書籍ですが、未読の方はぜひ、お盆休みの読書などにどうぞ。
話を元も戻します。
結果的に3回の廃止延期の末、今回正式に廃止は撤回となりました。
2.いつから廃止の話が出たのか
記憶している限りでは、2020年の1月にChromium Blogで公開された「Building a more private web: A path towards making third party cookies obsolete」という記事での発信が発端であったと記憶しています。
After initial dialogue with the web community, we are confident that with continued iteration and feedback, privacy-preserving and open-standard mechanisms like the Privacy Sandbox can sustain a healthy, ad-supported web in a way that will render third-party cookies obsolete. Once these approaches have addressed the needs of users, publishers, and advertisers, and we have developed the tools to mitigate workarounds, we plan to phase out support for third-party cookies in Chrome. Our intention is to do this within two years.
（訳）ウェブコミュニティとの初期対話の結果、継続的な改善とフィードバックを通じて、プライバシー保護とオープンスタンダードなメカニズムであるプライバシーサンドボックスが、第三者クッキーを不要とする形で健全な広告支援ウェブを維持できると確信しています。これらのアプローチがユーザー、パブリッシャー、広告主のニーズに対応し、回避策を防ぐツールを開発した後、Chrome でのサードパーティ Cookie のサポートを段階的に廃止する予定です。これは 2 年以内に行う予定です。
当時仲良くさせていただいた才流の澤井さん＠sawappから「Chromeがサードパーティクッキーを廃止する件、御社内でどう対応していくか具体的に話進んでます？」と質問され、結構てんぱって回答した記憶があります（苦笑）
ちなみに、Safari はこの約2カ月後の2020年3月にサードパーティCookie を完全にブロックするほか、それ以前より Chrome と比べ先行し取り組みを進めていました。
Apple は広告ビジネスにそこまで意欲的に手を出していないため（パっと思いつく限り、ASA と iAdぐらいでしょうか？）自社の収益に影響がないであろうことに見切りをつけて、早々に乗り出す姿はまるで2023年に現 Microsoft Copilot を早々に打ち出し Google をけん制した Bing を彷彿とさせますよね。
画像引用元；Bing での Microsoft Copilot
話を元も戻します。
振り返ってみると、これぐらいからリマーケティング広告の獲得効率が徐々に...というケース、結構あったかもしれません（もっとさかのぼると2017年9月の ITP 対応開始以降、徐々に対応した OS が普及し...というのも多少影響があったかと思いますが）
Intelligent Tracking Prevention in Safari detects and eliminates cookies and other data used by advertisers for cross-site tracking, to help keep a user’s browsing private.
（訳）Safariのインテリジェントトラッキング防止機能は、広告主がクロスサイトトラッキングに使用するクッキーやその他のデータを検出して排除し、ユーザーのブラウジングをプライベートに保つ手助けをします。
ただこの前年にはプライバシーサンドボックス構想を提唱していたり、すでに Apple は先行して対応を進めていたので、おそらくGoogle（Chrome）の同じように対応していくのだろう...とは思っていました。実際には、そう単純に話が進まなかったのですが...。
3.1度目の延期
1度目の延期は2021年6月で、コロナ禍でのことでした。
Chrome could then phase out third-party cookies over a three month period, starting in mid-2023 and ending in late 2023.
（訳）2023 年半ばから 2023 年後半までの 3 か月間でサードパーティ Cookie を段階的に廃止する可能性があります。
もともと「2年以内に行う予定」とのことでしたが、この時点で「2023年後半までに」と延期が発表されました。
市場の反応としては「まあ時間がかかりますよね...」といったものが多かったように思います。
またこの年は2021年4月にATT（Apple Tracking Transparency）の影響をもろに現 Meta 広告が受けるなどし（合算イベント設定やら認証済みドメイン設定やらをちゃんと行っていたところはそうでもないと思いますが）奔走していた方も多かったタイミングということもあり、あまり運用者間では話題に上がる機会も少なかったような気がします。
4.2度目の延期
2度目の延期はその翌年、2022年7月のことでした。
By Q3 2023, we expect the Privacy Sandbox APIs to be launched and generally available in Chrome. As developers adopt these APIs, we now intend to begin phasing out third-party cookies in Chrome in the second half of 2024.
（訳） 2023 年第 3 四半期までに、プライバシー サンドボックス API がリリースされ、Chrome で一般公開される予定です。開発者がこれらの API を採用するにつれて、2024 年後半に Chrome でのサードパーティ Cookie の段階的な廃止を開始する予定です。
この時点で、前述した「2023年後半」から「2024年後半」にまで延期されます。
この時点で、今思い返してみると様々なメディアで「またですか？」「本当ですか？」という声も多かったように思います。
そのあたりは、当時の広告関連メディア（特に海外）のものを見ていただけるとわかりやすいかと。
Simply put, there’s a growing cynicism toward any progress ever being made.
（訳）簡単に言えば、これまでに達成されたあらゆる進歩に対する懐疑心が高まっているのです。
ただその翌年には「Chrome ブラウザでのサードパーティ Cookie の段階的廃止に向けた次のステップ」と題するブログ記事が公開され...
この記事は無料で続きを読めます
- 5.3度目の延期
- 6.4度目の延期...ではなく撤回へ
- 7.撤回の理由
- 8.知っておいた方がいいこと
- 9.最後に
すでに登録された方はこちら
読者限定の内容も逃しません。